【1】2014/02/25

 

戦場は好きじゃない。人の心理が読み取れるとしても肉弾戦で弱い俺にとって殴り合いほど苦手で怖いものはない。この軍に入ったのだってただの俺の逃げ場所に過ぎない。過ぎなかったんだ…。

 

『久しぶりです』

『…へーちゃんじゃない』

『へーちゃんって…いいっすけどモントはここで何してるんですか?』

『まぁ、研究に使う毒を探しに今から外に出ていくところかな』

 

柔らかな微笑みをする彼は俺の先輩で俺がもっとも尊敬し溺愛しているモントである。病弱そうにして俺よりも高い背丈にいつもどうしてもっと自分は背が伸びなかったのだろうと思う。短距離戦を得意というわけではないが近寄る者はモントの毒に恐れて近寄らない敵軍のみであるが。

 

『外ですか?』

『うん。あ、でもまた喧嘩したんだね』

 

短距離戦では弱い俺は見た目がという理由で怖がられ、俺に近寄る人たちは喧嘩を挑んでくる奴等ばかり。モントとは真逆の立ち位置、みんなと溶け込みやすいモントと俺はどうして一緒にいると落ち着くのだろうか。

 

『とりあえずこれ渡しておくから』

 

俺専用になりつつある、いつもの塗り薬を渡され何とも言えない気持ちでいっぱいになる。この瞬間が一番好きだから喧嘩はやめられない。モントが俺をみて俺のために作ってくれる薬を俺が使って、わかれる際に微笑みをくれるモントが好きだ。

 

『…ありがとう』

『じゅあね、へーちゃん』

 

怖かった喧嘩を今では楽しんでいる俺とそんな怖い場所など行きたくないという怖がりな俺の狭間で今日も俺は前に進んでいく。



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【2】2014/02/26

 

今日また喧嘩をして傷ついたへーちゃんを見た。僕はへーちゃんを弟のように可愛がっているつもりである。ふと同僚に止められてどうしてあんな奴と絡むのだろうかと質問されるが僕はへーちゃんと一緒にいたいからである、それ以上の感情はない。もし僕がへーちゃんから離れてしまったら誰もへーちゃんと向き合わず存在していることを誰もが忘れてしまうのではないか。それは可笑しい、へーちゃんは存在していなきゃいけないんだ。僕みたいに幸せなのかも分からない曖昧な自分自身よりもずっと人間らしい。

 

みんながへーちゃんを避けるのはただ怖いだけじゃない、醜い自分自身を見抜かれてしまうことを恐れているから。僕にとってはどうでもいい話。僕自身の感情は誰よりも僕が一番わからないから。へーちゃんは生きたいために逃げたり、喧嘩したり、僕に話しかけてきたりできる姿は僕にはない、しっかり前を見て進んでいるへーちゃんの真似は僕にはできない。

 

『へーちゃん』

 

また屋上で寝てる。よくみるとさっきできた怪我とはまた別のところにも新しい傷が出来ているようにみえた。また僕とあった後に喧嘩したんだろう。どうしてこんなに僕に近寄りたいのかは全く理解できない。僕には感情が少ないから面白くて近づいてくるのかもしれないけど、それが合っているのかはわからない。

 

『ここで寝ると風邪ひくよ』

『…』

『後寝たふりでまだ起きないならここから出ていくから』

 

あ、目が開いた。澄んだ綺麗な翡翠色の瞳が僕をみる、この瞳の色で僕を見つめてくるへーちゃんが好きだ。へーちゃんが無表情な時は気分が上昇しているときで、いま僕たちの姿を誰かがみたらきっと無表情で何を見つめあっているのだろうかと言われそうだが、お互い気分的には高い。

 

『会いに来てくれたんですか』

『馬鹿、違う』

『なんだ…つまらない』

 

本当に僕はどうかしてしまったんだ。

 

『…物好き』

 

僕は普通の人間じゃない、何も特別を欲しない。最低限度のことを楽しみとして過ごし、興味のもったものだけをずっと続けてきた。昔の醜い自分はここにはいない、いないはずなんだ。

 

僕の本当の姿を見られないようにと固い壁を作っていたのに、いつか、近い未来ではなくてずっと遠い未来で僕自身の隠し続けた感情をへーちゃんに見られたとき、とてつもない憎悪感に襲われてしまうに違いない。そしてその時僕はここにいない。

 

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【3】2014/02/27

『おいっ!敵軍が攻めて来たぞ!?』

白と赤のコントラストが俺の目の前で、動き回る。ナイフや弓、槍、銃、様々な武器で繰り広げられるこの世界は何なんだろう。戦争とはなんだろう。

『お前!俺と相手しろ』

今俺の前に立っているこいつだって、心の中じゃ俺を怖がってる、なんで無意味な事をしているのだろうかと思っている、大抵の奴がよく考えることだ。俺も思う、だけど負けられない。

『可哀想な奴』

自分に言い聞かせてやるかのように発した言葉に笑ってしまった。肉弾戦が弱い僕でも相手が弱い場所がわかればそこを攻撃すればいい、心の中の弱い部分をえぐり出せば俺の勝ちだ。

『運が悪かったな、君』






『今日は無傷だね』

さっきの激しさはなくなり、一時的な戦争はどちらともなく終わりを告げた。

『今日の奴は弱かった』
『へぇ、まぁでもよく見たら腕には傷があるね…』

喧嘩でもそうだから回避力が乏しい俺には小さな怪我がいつの間にかついているということはよくある。でもモントの身体が怪我しているところとか見たことない。見たことなんて、

『…っ、ま、まて』



『その腕どうしたんだよ、モント』

始めてモントの腕に大きく巻きつけられた包帯はいつもきっちりと着こなししているブレザーには不釣り合いだった


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【4】

『これはなんだろうね、怪我じゃない?』
『怪我じゃないっておまえ』
『焦る必要ないでしょ、これくらいで』

どうしてそんな怪我してるんだよ、可笑しい可笑しすぎる。モントの肌に傷なんて、誰が誰がつけた。

『これくらいで、じゃないだろう!!』

許せない、許せない、許せない。今よく見たら腕に血が着いてる、救護の時に付いたとは別に飛び散った様な血。

『鬱陶しい』
『え、』

今何て言った、んだ

『…へーちゃんには関係ないでしょ、何様なの大体僕の身体の事にへーちゃんが傷つく必要もないし…もういいでしょ、ほっといて』


『こんなにへーちゃんが動揺するなんて思わなかった』

ああ

『僕は必要以上のことをするのは嫌いだし、必要以上に心配されるのも嫌いだよ』

あああ

『しばらくお互いに距離をとろう、このままだとお互いに悪い』

あぁあぁぁあぁああぁぁぁああ!
違う、違う違うっ、そんなことを言いたいんじゃない。段々モントがこっちをみない、距離が距離が遠くなっていく。モントが俺から離れそうになっている、今日のモントは可笑しい、どうしたんだよ、モント。

『、モント』
『手当ておわり』
『え、』
『早くでてって、僕の傷の手当てができない』
『いや、手伝…』

やばい、俺らしくないっ、こんな急に声が震えて、喧嘩とは違うモントからでる殺意に身体が思うように動かない。

『出て行って』

モントのもう一つの顔がやけに恐ろしかった。


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【5】

へーちゃんが出ていった後、急に肩の力が抜けた。ドアがあんなに重たい音がするなんて、思わなかった。思いっきりドアを閉めなくていいのに。でもあんなに怯えるくらい僕は怖かったみたいだから何も言えないけど。

『あぁ、泣きたいかも』

まさか、この僕が怪我するなんて思わなかったよ。ちょっとふらっと考えごとしたらまさか、あれがあるなんて。一番会いたくないあれが。憎い、僕が一番大嫌いな、こんな目にした元凶の植物。

あの植物がなければ、僕がこんなに困惑することなかった。敵軍があの植物を摘み取ろうとしていなかったら、僕が必死になって敵軍のやつに仕掛けなかった。

ほっとけなかった、僕にとってはもう無傷であろうと、あれは猛毒。しかし僕のトラウマが許さない。触るな、近寄るなが僕を襲う。

落ち着くために一人になりたいのにへーちゃんがずっと近くにいるし、離れようとしないし、それに

『あのままだったら誰かを殺しそうだったし』

まぁ、精神的な方だと思うけど多分生きていけないほど、ボロボロにされそうだね。へーちゃんには関係ないって言ったけど間違ってはいない。僕自身の問題だし、僕にトラウマがあるなんて言いたくない。

『まぁ、明日は普通に戻るかな』

へーちゃんがこれくらいで可笑しくなるわけがない。明日へーちゃんに謝らないといけない。


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