【12】2016/06/19

「モーリエル司令官」
「…また、先越されたか」

拳銃の音が聞こえたということで、駆けつけたところ、もう終わった後の様だ。

「意識はあるか」
「はい、先程意識を取り戻しましたが、全く記憶がないそうです」
「まただな。記憶喪失多発事件」

この事件はもう、何百年も前から解決できていない事件である。

「…皆、記憶喪失か?」
「はい、これまでと同じ症状です」
「わかった。だか、この屋敷の主人は裏で何かをしていたようだ。すぐにそちらの調査の方に移れ」
「わかりました」

してやられた。毎回そうである。この街に関しては警察保安部の方が先に情報が集まる。けれども、こうやって先に問題を解決していくのはいつも謎の集団なのだ。モーリエルは深い溜息をつく。色々とする事はあったのだが、この苛立ちを隠すために早く家に帰るのが一番良いと判断した。ついでに、ディアーヌが喜ぶような菓子を買ってから帰ろうと思った。


***


「…ここは?」
「雪咲、目が覚めたのね」
「おい、大丈夫か?」

目を覚ますと僕は蛍の部屋で眠っていた。体を起こそうとすると、朱鷺にまだ寝てろと言われた。

「どうして、僕はここに居る?それに、…何だが大切な何を忘れたみたいだ」

そう、目を覚ましてから意識が朦朧としている。まるで、何かの大切なピースを一つ無くしてしまったような感じがした。

「…雪咲。私の名前わかる?」
「蛍でしょ」
「ここ数日の記憶はどうだ?」
「…」
「俺と行動しただろう」
「僕、が?」

朱鷺は悲しそうな表情で笑う

「そっか、ならもういい」
「いいの?」
「あぁ、お前が無事ならそれでいい」
「僕に何かあったの」

そう僕はここ数日の記憶がない。
また、今まで苦しめられていた記憶も失っていることに気づいていない

「ねぇ、雪咲」
「何、蛍」
「私のこと好き?」
「え?好きだよ。どうしたの急に」

大事な恋の気持ちを代償に、雪咲は記憶を失ったのだ。

「…っ、そうね。よかった」
「…蛍、お前」
「朱鷺、いいのよ。…これから少しずつやり直していける。雪咲がずっとそばにいれば」

二人の会話を聞きながら、今にも泣きそうなのに、凛として僕に蛍は笑ってくれた。

「雪咲、これからここで一緒に暮らしましょう?後朱鷺もよ」
「俺はおまけか」
「そんなことないわよ」

なんだか、もやもやする。
このもやもやは何だろう。

ーー蛍、笑ってよ。

「一緒にか、…いいね」
「え」
「何、二人して驚くなんて。提案した蛍も驚くってことは冗談だったわけ?」
「え、あ、こんなにあっさり頷いてくれたから」
「朱鷺もいるからね。朱鷺と暮らすのはいつぶりかな」
「…そ、そうだな。あれは蛍と出会った辺りだな」
「…そう、あの頃は楽しかったから、またあの頃のように、なりたいなっと思っただけだよ」

二人は目を見開いていたが、僕の言葉を聞いて、やっと優しく笑ってくれた

「あぁ、そうだな。あの頃に戻ろう」
「そうよ!あ、そうとなれば荷造り手伝うわ!」

大事なピースを失ってぼんやりとしたいた未来がやっと楽しい景色に変わり始めた。


***


「…はぁはぁ」
「…」
「あははは、…」
「…またこれは、久々に見たと思えば」

妖の森にある古びた神社に久々の柚子野を見つけた。これはまた、暴走して元の状態に戻らないのだろう。私が柚子野に近づくと、私に倒れてきた。

「ひ、ひいらぎ」
「随分と過去の記憶が溢れてる」
「…た、助けてくれ、もう、もう、頭が割れそうだ」
「そんなことならないから。柚子野、私の目をじっと見て」

柚子野はかろうじて頭を動かし、柊の瞳をみる。柊には過去の記憶を操作する能力がある。だが、柚子野にもその力があるらしいのだが、自分自身ではその力をうまく正常できないらしい。

「君の過去は、相変わらず重いね」
「…」
「柚子野のような闇を私は、消し去るだけの力はないけど」
「…ひいらぎ」
「いつもの柚子野に戻すまでなら出来るよ。おやすみ、柚子野」

柊の瞳が黄色から青に戻り、青の瞳で柚子野を見下ろした。よく眠っている。

「…はぁ、全く大きな力を使ったから私までも眠くなってしまったよ。このままでは柚子野はしばらく目を覚まさないだろうし、私も少しばかり休むとするか」

柚子野の隣で柊は瞳を閉じた。なんだか、この数日は慌ただしかったように感じる。こうやって柚子野がここに来るのも、何かが終わった後だ。

「でも、よくあることだけど」

日常から非日常へ、そしてまた日常へと戻る。そんなことを繰り返しながら、この世界は前に進んでいく。


END



オマケ

「すあまさん!」
「あら、会議室にみんな集合してるのね」
「すあまさん、助かりました」
「あら、いいのよモントくん。久々に運動が出来たわ」
「俺も随分と楽しく暴れることができたし、よかったー♡」
「おい、ミレー離れて話せ」
「えーいいじゃないですかー。任務の時なんて親玉狙うのは俺の仕事ですけど、その他ずっと俺を放ったらかしにして、楽しんでたじゃないですかー」
「俺の邪魔したいのか」
「いいえ、まさか♡」
「とりあえず、すあまさんの勘のおかげで無事解決したので、この書類は破棄しますね」
「お願いするわ、モントくん」
「燈くん、この書類を破棄よろしく」
「わかりました」
「後、薬減ったよね。後で僕の部屋に来て。追加分渡すから」
「…」
「何、ブラン」
「俺たちの家に燈をつれてくるのか」
「いいでしょ。何がだめなの」
「…」
「えー!燈くんずるいー俺も行きますよー!」
「あらあら、みんなが行くなら私もついていくわよ」
「…はぁ、」
「たまには、いい刺激になると思うよ、ブラン」
「俺はモントとゆっくりしたいだけなんだよ」
「僕は、燈くんと研究するからね。暫く相手は出来ないよ?」
「な、なんだと」
「えー!チャンス!ブランさん、その間俺と戦闘訓練しましょーよー。暫くブランさんとしてないんですよ!」
「あら、ブランくんとするのは珍しいわね。私もそっちにいれてくれないかしら?」


こうして、再び時の管理所は平和に戻ったのだった。


END