【2】2016/06/01

第1次元、明治大正と言われる時代の街。和だけでなく、西洋の雰囲気もまじっているこの街はいつも賑わいの声で溢れている。けれど、明るい場所には必ず暗い危ない場所が存在する。

「…ちょっとそこのお兄さん。どうだい?これなんか珍しい代物だよ」
「あぁ?いらないね。それよりお前、そんなものこんなところで売ってたら危ないぞ」
「赤い髪の兄ちゃんに言われなくったってわかってるよ、それより買うのかい?買わないのかい?」
「いらないよ、必要ないんでね」

怪しい店が賑やかな店に紛れてることくらいよくある話だ。けれど、最近怪しい店が増えたようにも思える。警察保安部は何をしているだろうな

「…はぁ、それよりもだ、…雪咲はまた、どこ行ったんだ。調査とはいえ、俺だって一応依頼人だからな」

髪も袴も赤い青年は道の端を歩いていたってよく目立っていた。また別嬪さんと言うこともあるのだろう、若い女性からの視線を感じては女性に向けて笑顔を振りまいている。

「…ちょっと、朱鷺何してるの?」
「お、やっと見つけた。それはこっちの台詞だ、雪咲こそ一体どこにいたんだ」
「新しい住宅探し」
「…あぁ、成る程」
「それより、朱鷺こそ、今日はどうしたの?手紙なんか急に寄越してさ」
「まぁ、立ち話もなんだし、どこか座って話さないか」
「…別にいいけど」

くせ毛のある長髪の青年は朱鷺に比べると髪も袴も青い。朱鷺は男性的な見た目というならば、雪咲は女性的な見た目といった容姿をしている。

「…そこのお嬢さん、これ落としたよ」
「…」
「…ぷ、あははは!おい、雪咲。お前呼ばれてるぞ」
「え?」
「これ、お嬢さんのだろう?大事な手帳じゃないのかい?」
「…」
「お嬢さん???」
「…ぼ、僕は」
「???」
「僕は、僕はーーー男だ!!」

そう、見た目は女性的な正真正銘の男性である。よく、背が高いとはいえ、顔立ちが綺麗なため、女性だと間違えられるのだ。稀に朱鷺の彼女かい?と言われた時は爆笑だった。

「…はぁ、ついてない」
「まぁ、いいじゃないか。変装で女装使った時は助かったじゃないか」
「…思い出したくもないことをベラベラと」
「まぁ、そう睨むなって!よし!まぁ俺のよく行く甘味屋にでも入ったら好きな物食べろよ。奢ってる」
「…随分と稼ぎがいいんだね」
「まぁ、それ程でも」

にやにやと、笑う朱鷺という青年は、一番頼りになる一方、沢山の顔を持ち、何をしているのかを一切話さない、よくわからない親友である。


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【3】2016/06/01

街の外れにある森。妖気な雰囲気を感じられるこの少し変わった森はどこにでもある森とは少し違う。それは通常よりも多くの妖が、この森に住んでいるのだ。通称、妖の森と呼ばれている。

「また来てくれたのか」
「ひーちゃんがきて欲しいって言った」
「あはは、そんなこと言ったかのう」

月夜が美しいある日の夜。星空が水面に映り、まるで星が泉に降ってきたかのような場所に1人の妖と、そこにやってきたばかりの妖がいた。妖の森の奥にある泉に住むタツノオトシゴの龍人と、森の奥にある忘れられた神社に暮らす青いキリンの獣人である。にこにこと笑うタツノオトシゴと無表情のキリンの組み合わせでもある。

「でも、ひーちゃんって呼んでくれているではないか」
「私がひーちゃんなんて呼んでるのは君だけ、あと呼んで欲しいと言ったのは君」
「お前の友達1号じゃからのう」
「そんなに友達1号っていう響きが好きなら友達1号君って呼ぶよ」
「いやいや、ひーちゃんがいい!ひーちゃんが!」
「毎回毎回、友達1号友達1号って言われるから、呼んで欲しいのかと思うから。…ふーん、そんなに友達1号になれたのが嬉しいんだ」

泉に石が投げられたように、波紋ができる。タツノオトシゴの彼は真っ赤に頬を染めていた。

「ば、馬鹿じゃないか!そんな、1人が淋しくて相手して欲しいとか、お話して欲しいとか、遊んで欲しいとか思ってないからのう!」
「ふーん」
「おい、柊」
「何?秘色」
「っ、ひーちゃん…」
「私もひーちゃんだけど?」
「あぁ!!もう、柊!」
「ぷ、だって楽しいそうだから、ひーちゃん」
「仕方ないだろう、初めてなんだ」

消えてしまいそうな秘色の声にくすっと小さく笑う柊。こんな関係になったのもついこの間だと言うのに、楽しい時間だ。

「…あ、そこにいるのは柊さん?」

微かにガラスのようなものが地面に落ちたかのようにキラッとした。そこには桃色の髪をしていて、身体に水晶を纏う少女が立っていた。彼女はちらっと木の幹から顔を出す。

「玻璃、君こんな時間に何をしてる?」
「ちょっと、水晶で遊んでたら日が暮れちゃってて、夜になってたの」
「柊、彼女は?」
「ひーちゃん、彼女はね、水晶の妖の玻璃。昨日足を挫いてたのを助けた」
「…綺麗だな、お前」
「…でも私の体も水晶と同じだよ?冷たくて固くて、退屈で仰々しいだけ」
「そんなことない、…って待て!これはまさか友達2号か!」
「友達何号作る気…好きにすれば」
「え?え??」
「…玻璃、良かったね」
「…」

玻璃は固まる。そう玻璃は昨日柊と出会うまで一人ぼっちだった。昨日足を手当てしてくれたところには柊によって包帯が巻かれている。玻璃は、水晶が埋まっている身体に嫌だと思っていたため、他人に見られたくないばかりに、結晶で柊の手に怪我をさせてしまった。でも柊は無表情だった。その彼を見ているうちに落ち着きだした玻璃は距離を取り続けていたにも関わらず、少しずつ近寄り始める。本当は友達が欲しかったのだ。

「…私、怖くない?」
「全くない」

あの時、初めてふっと笑った彼が優しくて、ほっこりした気持ちに玻璃はなった。手当てをお互いした記憶はまだ新しい。

「…友達になってくれませんか!」
「いいよ」

まるで、あの時の玻璃のように秘色も玻璃と友達になりたいと思っているのだと
気づいた。そんなメッセージを、玻璃は笑顔で受け止めた。ちょっと不思議な一人ぼっちの3人が集まった夜だった。




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【4】2016/06/02

「もう、逃げらないよ!」

左肩の出血の量が多いせいか、左腕の感覚が薄れている。どうして、僕が知らないお姉さんに追われないといけないのだろうか!

「もう、いいかい?」

びくりと、固まる。僕が今から使おうとした札がぐさりとサイフで地面の上に刺さっている。もうあの札は使い物にならないだろう。

「あら、返事がありませんね」
「…」

右目の眼鏡がキラリと輝く。まるで獲物を逃さないと言った猛獣の眼のようで、傷を負った青年はもう、動くことが出来ない。

「ーーーーーーみーつけた」
「!!」
「あらあら?どうしたのかしら、そんなに怯えちゃって」

もうおしまいだ。まさかこんなところで、僕は死ぬのだろうか。それなら最後に大好きな妖たちにお別れをしたかった。いや、もっともっと遊んだり、お話したりしてあげればよかったんだ…あぁ、こんな綺麗なお姉さんに消されるんだなんて、嘘だと言って欲しいよ!

「…っ」
「あら、やり過ぎちゃったのかしら」
「お願いします!殺さないで下さい!僕は、まだ死にたくないんだ!もっと、長生きしたいんだよ!」
「何を言ってるの?そんなことしないわ」
「…へ?」
「もう、貴方が逃げようとするから足止めしただけよ?もう、逃げちゃうんだもの。駄目よ?追いたくなるような可愛いことしたら」
「…へ?え?」
「そのまま動かないで。ごめんなさいね、飴ちゃん食べます?」
「え?え?えええええ?」

さっきまでの殺意はどこにいってしまったのだろうかといった優しい雰囲気に変わってしまった女性に、青年は動揺を隠しきれなかった。

「あ、もらい、ます」
「貴方が五鈴さんで間違いないですよね?」
「…どうして、僕の名前を?」
「ふふ、貴方にしか頼めないことがあるのよ、協力して欲しいのよ」
「…」
「ーーー拒否権はないわ」
「…!」
「そうそう、何度も頭を縦に振らなくてもいいのよ。可愛いわー」
「…」

僕はどうやら、変なことに巻き込まれたみたい…みんな、助けてー!






「ん?何聞こえなかった?」
「いや、何も聞こえなかったのー」

柊と秘色は呑気に泉のほとりでお茶をすすっていた。波璃はというと、今日は動物と遊ぶそうだ。

「ん?あれは誰かのう」

柊は秘色の指差す方へと目を向ける。すると、そこには人間がいた。珍しい、こんな昼間からこの妖の森にやってくる人間がいるのは。

「あやつ…もしや、この泉で水浴びでもするつもりかのう?」
「…見てくる」
「…仕方ないのう、私はここでじっと観察しといてやろう」
「ただ緊張してるだけでしょ、ついて来たかったら来てもいい」
「な!このとっておきの場所をもし誰かに取られたら嫌ではないか!」
「取らないよ」
「う、」

柊はふっと秘色に向かって笑った。すると秘色はしぶしぶといった雰囲気で柊の後ろについて来る。

「わ!こんなところに泉が!ここなら人も居ないし、大丈夫だよね」

色素の薄い髪の青年が泉に脚をつけようとしている。しかしよく見てみると、青年の脚は、人とは少し違う刺青のような模様が描かれているようにも見えた。やっと、青年が見える位置にやってきた2人はそっと様子を見る。どうしたことか青年の脚はまるで魚のような脚になっている。彼は人魚の半妖なのだろう。

「あ、その脚」
「!、あ…見られちゃいましたか…誰もいないと思っていたのですが、、」

青年は驚いた様だが全くこちらを見ずに、背を向けて話しかけてきた。そして、そっと脚を隠そうとしている様にも感じた。

「ごめんなさい、変なものをお見せして…」
「いや、とても綺麗な脚」
「!」

まさかそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったのか勢いよく、2人に顔を向ける。黄金色の瞳が印象的だった。

「き、綺麗?」
「うん、それに私なんて角や耳が生えてるから」
「私も、柊と同じ意見じゃ。私は角が生えておる」
「…純粋な妖さんなんですね」
「そうかな」
「…お邪魔しちゃったみたいですいません、実は少し待ち合わせをしていまして」
「待ち合わせとは、最近この泉に沢山近寄ってくれる者が増えてきたのうー嬉しいのう」
「そう、じゃあその待ち人が来るまで、泉に入ったらどうです?好きなんでしょう、水」
「…はい」
「私は柊、君は?」
「…浅葱」
「私は秘色!ひーちゃんって呼んでくれ!」
「…ひーちゃん」
「うぅ、嬉しくて涙がでるのう」
「はい、これで拭いて」

ぽろぽろぽろと大粒の涙を流す秘色に柊が慣れた様に、小さな布を優しく拭いてやる。まるで、母と子。

「…ここ、いいですね。また来てもいいですか?」
「勿論!私も友達が増えて嬉しいからのう」
「いいよ、ここはどんな見た目だってとやかく言う奴はいない。安心して来たらいい」

浅葱は、待ち人を待つ間だけの付き合いだろうと思っていたが、彼らは違うようだ。その様子が半妖の身体を持つ浅葱にとって、なかなか無い関係に心地よさを感じていた。

「ようこそ、妖の森へ浅葱」

また、こうして妖の森にやってくる奴が増えていくのであった。



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【5】2016/06/04

「あんさん、何してるんだい?」

街の中心から少し離れた裏路地で、赤い和傘を差した青年は、見たことのない服装をしている青年を見つけた。いつの間にか昼寝をしてしまったというわけではなく、丁寧に肩まで布を掛けて、壁に身体を傾け、眠っているようだ。

「…っん」
「そんなところで寝たら風邪ひくぜ」
「ん?あぁ、もうこんな時間ですか…こっちの時間には慣れないっすわ」

慣れない?何を言っているのか、さっぱりわからないと俺は思った。起き上がった青年からは、柚子の柑橘系の香りが漂う。

「あんさん、どこの国から来たんだ?」
「…まぁ、国ったら国なのかな、まぁ随分遠い所からわざわざこっちに来たところっす」
「ふーん、でもここで寝るだなんて、危ないぜ。ここは街で一番ガラが悪いところだ。あんさんみたいな男前が寝てたら、ただじゃ済まないぜ」
「そんな危ない奴1人も通らなかったけど?」
「え?」

そんな馬鹿な、と呟いてしまいそうになった。そんな訳ない、だってここは安心して寝ていて無事な場所ではないという程、荒れた人が集まる場所だ。無傷で寝ているだなんて…。

「お前、俺のこと軽く見てない?」
「は?」

何だこいつと睨む。だか、よく見ると刀を持っているのを見つけた。それに右目瞼に斬り傷の跡が残っている。普通の人間がもつ雰囲気とも違うようにも感じた。気づいてしまったら、もう遅い。俺の中にいる好奇心が戦いたいと叫んでいる。

「あんさん、強いのか」
「あぁ、死ねない程強いっすね」
「…俺は、鴉紅丸(あこうまる)、カラスの妖だ」
「へぇ、妖」
「あんさんとお手合わせしてみたいんだがいいかい?」
「嫌だね、忠告する…お前には俺に近づかない方がいいーーー」

風がぴたりと止まる。まるで、空気がなくなったかのような息苦しさを感じ、上手く呼吸が出来ない。また、青年の瞳から目が離せない、動けない!

「ーーー怪我だけじゃすまないっすよ」

全身が凍った。なんだ、今の殺気は。先程までの爽やかだった顔から、ギロリと人が変わったかのような狂気。けれど、青年が瞼をぱちぱちと開け閉じをしていると、元に戻っていた。

「俺は、柚子野。鴉紅丸、お前は戦うのが好きなのか?なら、俺に挑むのを止めて、俺と来るのはどう?」
「…」
「あ、マスクつけ忘れてた…ごめん、めちゃくちゃ怖い顔してたっすか?あちゃーやっちゃった、怖がらせるつもりはなかったんすよ」

完敗だった。戦う前から、負けた。その理由はさっきの威圧から、指一本も動かせないからだ。まさか、ここまで、動けなくなることはなかった。…こいつは強い、そう確信した。

「…あんさん」
「お、付いてくるか?まぁこっちに俺がいる間だけど」
「偵察やスパイだってなんでもしてきた。だからあんさんに頼まれたら、偵察やスパイだって、色々やりますぜ!」
「…へぇ、いい拾いもんしたかもな」
「男に二言はねぇ」
「わかったっすよ。とりあえず、柚子野だから、あんさんってやめてくれないっすか」
「なら、柚子でいくぜ?」
「いいっすよー」

柚子がにやりと笑うが俺は気にしない。俺は、カラス。先程の悪魔の様な怖さを高い援位置から柚子の側で、何が起こるのか、見てやると決めた。また、俺も負けじと笑ってやった。


To be continued